わたしが、
大学生の時のこと、
わたしが働いていたアルバイト先に、
「愛人を生業とする」女性が、
働いていました。
今日は、
その女性のお話をしようと思います。
とても品のある、
とても美しい女性でした。
年齢は、
おそらく、
50代後半〜60代。
こんなところで働かなくても暮らせるのに…
と、
アルバイト先の人たちは、
みんな、
そう言っていました。
その女性は、
1年に5.6回は海外旅行に行き、
職場の人たちに、
旅先で写した写真を見せていました。
写真には、
必ず、
その女性一人だけ写っていました。
聞くところによると、
その人は、
とある大企業の要職にある人の愛人、
ということでした。
若い頃からずっと、
同じひとりの男性と、
愛人関係にあるのだそうです。
その人は、
とくに、
その愛人関係を、隠すこともなく、
もちろん、
お相手の男性の名前などは、
一切、口外しませんが、
アルバイト先の同僚に、
「証拠は残さない。それが大事。写真を二人で撮ったことは一度もないわ。」
「追いかけない。こちらからは連絡しない。あちらが会いたいとおっしゃる時は、必ず時間をあける。それが、長く続く理由。」
「彼と奥さま、ご家族との時間を尊重する。」
とか、
そんな話を、
よくしていました。
ある日、
アルバイト先の部屋にある、
ホワイトボードを使って、
友だちが、
恋愛講座を始めました。
「nicoは、いっつも、三角関係になるよね。」
そう言って、
こんな図を、
ホワイトボードに描きました。
「こんな時もあったよね。」
「なぜ、こんなことになるのか!?」
「nicoが優柔不断だからだよ!」
…ああ、
そのとおり…
それを見て、
その女性は、
クスっと笑いました。
またある日、
アルバイト先で、
わたしと、
その女性と、
二人だけで仕事をする日がありました。
女性は、
わたしに、
こう言いました。
「nicoちゃん。こんなこと、若い女の子に言うのは失礼かもしれないけれど、nicoちゃんは、愛人タイプね。」
「ごめんなさいね。褒めてるのよ、わたし。」
「nicoちゃんが三角関係になって身を引いてしまうのは、nicoちゃんが相手を思いやっているからでしょ。三角の残りの二つの角の二人をね。」
「愛人には愛人の流儀というものがあるの。お互いに相手を思いやることが大切なんだと思う。」
「ここには、たくさんの女の子がアルバイトに来てるけど、愛人ができるのはnicoちゃんだけかな。」
「愛人になれる人はいい本妻にもなれる。だからもちろん、nicoちゃんはいい奥さんにもなれると思う。」
「ああ、あんまり気にしないで。ごめんなさいね、もう忘れてね。」
わたしは、
そんなことを言われても、
何も答えられませんでした。
開いた口が塞がらない…
そんな感じでした。
愛人稼業を、
たった一人の人との、
許されない恋愛を、
それを、
胸を張って、
誇りを持って、
堂々と、
生業とする。
覚悟を決めて、
それを選択したならば、
周りなど気にせず、
堂々と、
カッコよく。
そんな生き方をする人に、
わたしは会いました。
nicosa