今日は、
わたしが不思議な体験をして、
その後、
彼は特別な人なのかもしれないと、
思うようになっていった、
その頃のお話をします。
2016年、2017年、
どんどん自分が変わっていく…
そんなふうに、
自分でも感じながら、
季節は流れて、
また次の季節も流れて、
彼と、次の春に、
ランチをしましょうと、
約束をしていました。
その前の年に、
一緒にランチをした人と、
3人で。
約束をした日の少し前、
2018年の2月のある日、
家の都合で仕事を早退して、
外に出たら、
小雨が降っていました。
傘を持っていませんでした。
そのとき、
なぜだか分からないけど、
「〇〇さん!傘持って来てください!」
と、
声に出して、
彼の名前を、
言っていました。
彼が傘を持って来てくれるはずもなく、
わたしは、
傘をささずに、
走って、
駅へと向かいました。
わたしを呼ぶ声がしました。
ふと顔を上げると、
そこに、
仕事中のはずの、
彼が立っていました。
緑色の傘をさして。
「ぼくは使いませんから、nicosaさん、この傘、使ってください。」
そう言って、
彼は、
わたしに、
傘を渡そうとしました。
傘持って来てと言った、
わたしの声が、
彼に聞こえたのかと思って、
びっくりして、
わたしは、
声が出ませんでした。
彼と目が合いました。
その瞬間、
彼と傘以外の周りの景色が全部なくなって、
ねずみ色になりました。
彼の声以外の音は、
車の音も、
人の声も、
消えました。
見えるのは、
彼の姿と、
緑色の傘。
聞こえてくるのは、
彼の声だけ。
傘と彼と、彼の声。
それしかない世界の中に、
わたしは居る気がしました。
吸い込まれた。
わたしは、ふと、そう思いました。
そして、
その居心地の良さから、
なぜか、
逃げ出したくなりました。
左手を横に動かして、
傘はいらない、
と、彼に合図して、
わたしは、
逃げるように、
駅へと走りました。
角を曲がると、
そこにはいつもの景色がありました。
その向こうには駅が見えました。
車の音、人の声も聞こえてきました。
その数日後だったと思います。
彼ともう一度会って話をすれば、
あの感覚は何だったのか、
分かるような気がして、
わたしは、
彼に、
「二人で会ってください。」
時間と場所を指定して、
「そこで待ってます。」
と言いました。
彼から返事が来ました。
「行きます。」
でも、
彼は、
来ませんでした。
ランチの約束の日が来ました。
彼が店の前にいました。
笑って手を振っていました。
店に入り、
席に着くと、
彼は、
「行けなくてすみません。」
と、
わたしに言いました。
何のことを言っているのか、
すぐに分からなくて。
あっ。
あの約束のこと。
思い出して、
わたしは、
「はい。」
と、
頷きました。
ランチの帰り際に、
また彼は、
その前の年と同じことを言いました。
「まだ、ここに居ますよね?」
「居てくださいね。」
雨の日の不思議な体験は、
体調が悪かったのかもしれないし、
周りの景色がグレーになることや、
音が聞こえなくなることは、
今までもあったし、
わたしにとって、
それは、
特別、衝撃的なことではありませんでした。
でも、
その日から、
いろんなことに、
気付きはじめます。
「走馬灯のように」って、
きっとこんな感じ…
今のわたしのストーリーと、
「前」のわたしのストーリーが、
頭の中で、パラレルに展開したり、
短期間の間に、
いろいろなことに気付いていく、
そういうことだったんだ、
そういうことだったのか。
そんな体験をするのです。
nicosa